男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
(本当に、勘弁してもらいたい)

 またしてもフラフラと近づきそうになっていた足を止めて、ピケは「落ち着け」と息を吐いた。
 ため息に気づいたノージーが振り返り、気遣わしげにピケを見つめる。

「お疲れですね。気を張り続けるのは大変でしょう」

「うん……」

「逃げるつもりならまだまだ先ですし、逃げるつもりなんて毛頭ないのなら、いつになるのかわかったものではありませんね」

「そうだよねぇ……でもこういう場合、逃げずに自害するパターンが多い気がする」

「よくある悲恋ものですと、そういった展開が多いですね」

 掃除を担当している廊下に人気はない。
 いつもだったらノージーを目当てに誰かしら通りそうなものだが、今日は静かだった。
 ピケはその静けさが気になって仕方がなくなってくる。なにか喋らないと、と強く思った。
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