男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 昨晩、ピケの部屋へ向かっていた時のことである。
「またあとで」を実現すべく、緊張と興奮を諌めながら廊下を急いでいたら、ノージーの敏感な耳がピケの声を聞きつけた。

「好き」

 ポツリと聞こえてきた声に、ノージーの足が止まる。
 ビビビっと尻尾が膨らむのがわかった。

 その言葉は、何に対して言ったのだろう。
 もしかしてと期待する自分に「いやそんなわけがない」と押し留めつつも、やっぱり期待せずにはいられない。
 ノージーの手が、結髪越しに耳を触る。緊張を和らげようと、無意識に毛繕いしているらしい。

 息をすることさえ忘れて気配を殺すノージーの耳に、再びピケの声が届く。
 聞き逃すものかと、いじっていた手をバッと離して、ノージーは耳を澄ませた。

「私、ノージーのことが好きなのね」

 その瞬間、ノージーの脳内は一面お花畑になった。
 好き、好き、好き! 僕のことが好きだって!
 パッパヤー! とラッパの音が鳴り響き、子猫たちが祝福のダンスを踊る。
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