男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 ピケが自覚したこの瞬間に立ち会えたことを、ノージーは心から感謝した。
 猫生九回目にしてようやく、この時がやってきたのだ。
 失敗続きの八回の猫生も、今この瞬間を最高にするための布石だったと思えば、悪くないと思えてくる。

「もしかして……今、想いを告げればノージーは人になれる?」

 ああ、そうだとも。
 ノージーは答える代わりにスキップしながらピケの元へ向かう。
 その途中で警戒中の警備兵とすれ違って、ノージーは上機嫌に「お疲れさまです」と声をかけた。
 いつもならばしれっとした顔で冷たくあしらわれている彼らは、その無邪気な笑顔に度肝を抜かれ、ある者は魂を抜かれたようにその場へ座り込み、またある者は隣の同僚に抱きついて喜びを分かち合った。

 だが、ノージーが喜んでいられるのはそこまでだった。
< 221 / 264 >

この作品をシェア

pagetop