男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 ノージーは人払いされた廊下を足音もなく歩く。
 いつもの女装姿ではなく獣人用に特注された黒い軍服を身にまとった彼は、なかなかに──いや、正直言ってだいぶ男前である。
 ピケがいればふにゃふにゃとしまりのない顔しかしない彼も、この時ばかりは表情をキリリと引き締め、これから始まる重要な任務(ミッション)に緊張しているようだった。
 短く切り揃えた髪のてっぺんにあるふわふわの耳はピンと天井に向かって立っていて、キュッと引き締まった腰あたりからは、いつもの倍に膨らんだ尻尾がモフモフとしている。

 ガルニールが使用している客室の周辺は、しんと静まり返っていた。
 角に身を潜めて気配を探るが、部屋にはガルニールしかいないようである。
 昨晩から敷かれた総司令官の命令により、このあたり一帯が立ち入り禁止になっているので、当然ではあるのだが。

 気合を入れるように小さく息を吐いたノージーは、難なく魔術を展開する。
 ノージーの魔術は、対象を眠らせて夢をみせること。
 万が一を考えて、人払いがされている一帯すべてに使用する。

「おやおや」

 どうやらそれは正解だったらしい。
 倒れる音が複数聞こえてきたが、ノージーは動揺することなく力を奮い続けた。
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