男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 胸を押さえて首をかしげるピケが黙っているのを良いことに、アドリアンは適当にケーキを数個注文してしまう。
 注文を受けた支配人は、孫でも見るようなあたたかな目で二人を見て、会釈をして部屋を出ていく。

 静かな個室が落ち着かない。

「そっ、総司令官様も甘いものとか食べるんですねっ」

 胸の鼓動をごまかすように、ピケはことさら明るく言った。

「ああ、好きだ」

 想像だにしないくらいのやわらかな笑みを向けられて、ピケは息を飲んだ。
 なんだか口説かれているような気がして、反応に戸惑う。

「うぐ」

 口をへの字にして息を詰めているピケは、小動物を彷彿(ほうふつ)とさせる。
 アドリアンは小さいものが好きだ。自分には手に入らないものだから、なおさらなのかもしれない。

「おまえはかわいいな」
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