男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 テーブルの上に肩肘をついて頰を乗せ、コテンと首をかしげながら見つめてくるアドリアンは、慈愛に満ちている。
 彼は男の人なのに、なぜか亡き母のあたたかさのようなものを感じた。
 本心からかわいいと思って言ってくれたことがわかって、嬉しいという気持ちがじわりと胸ににじむ。

(変なの。総司令官様は男の人なのに、なんだか年上の女の人みたい)

 アドリアンの手が伸びてきても、ピケはおとなしくしていた。
 見た目は誰よりも恐ろしいのに、どうして平気なのだろう。
 不可思議な感覚に困惑した表情を浮かべるピケの眉を、アドリアンが撫でる。
 くすぐったさに身を竦めていたら、ふいに距離を詰められた。

 息遣いさえ聞こえそうなくらい近づいた距離に、ピケは慌てふためく。
 そんな彼女の視線を独占するように蠱惑的な笑みを浮かべたアドリアンは、内緒話をするように小さな声で「おまえは女性が好きなのだろう?」と言った。
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