男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 雪が溶け、花が咲き、蝶や蜜蜂が飛ぶようになった頃、王都は祝福ムードに包まれた。
 王太子が異国の王女と婚姻を結ぶ。
 政略結婚かと思いきや、どうやらこの冬の間に想いを重ね、仲睦まじいご様子らしい、と人々はうわさした。

 二人の結婚を祝うため、ある者は花を飾り、ある者は道々を掃除し、ある者は訓練に精を出す。
 王太子と異国の姫の結婚式は王城で執り行われ、その後お披露目のためのパレードが行われた。

 沿道に押しかけた民衆は、馬車の中から手を振る仲睦まじげな様子の新婚夫婦に、やはりうわさは本当だったのだと嬉しく思った。
 お針子たちが持てる技術のすべてを注ぎ込んだ純白のウエディングドレスは、幸せそうに微笑む王太子妃の美しさを、さらに引き立てる。そんな彼女に夢中で、手を振ることさえ忘れて魅入っている王太子に、人々は「あらまぁ」と顔を見合わせ、笑い合った。

 ピケとノージーは、彼らの結婚式を見納めに、侍女を辞めた。
 もともと侍女という職はピケにとって重荷だったし、それ以上に彼女がイネスに対して罪の意識を感じてしまい、今までのように接することができなくなってしまったのが原因である。
 イネスはもちろん、ピケを手放そうとはしなかった。
 だが、次第に表情を曇らせていくピケがあまりにもかわいそうで、最終的には月に一度のお茶会に参加することで合意したのである。
< 262 / 264 >

この作品をシェア

pagetop