男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 万事休す。
 ノージーの脳裏に、今まで破れた恋の相手が、浮かんで消える。浮かんで、消える。浮かんで、消える。浮かんで、消える。浮かんで、消える。浮かんで、消える。浮かんで、消える。浮かんで、消える。

 彼の八つの猫生はすべて、報われない恋によって幕を閉じてきた。
 そして最後の九回目の猫生にして初めて、恋以外の理由で終わろうとしている。
 カラスの餌食になるという、最悪の最期。

『嫌だぁ……せめて最後の一回くらい、かわいい女の子と報われる恋がしたかった』

 ミャア、とか細い声が息とともに吐き出される。
 木の上のカラスが、今にも息絶えそうなノージーを喰らおうと枝から降りた。と、その時である。

 ──ドドドドド!

 凄まじい速さで、二つの足音が迫ってくる。
 足音はノージーとカラスの方へ一直線に向かってきているようだ。
 カラスは慌てて飛び上がると、再び枝の上へ舞い戻った。

 ──ドドドドド!

「キャァァァァァ! たすけてぇぇぇぇぇぇ!」

 次第に、足音とともに声が聞こえてきた。
 女の子の声だ。
 助けて、とは穏やかではない。
 聞こえてくる音から察するに、女の子は猪に追いかけられているらしい。

『あぁ、あの子もおなかを空かせているんだ……』

 枝の上で遠くを見つめるカラスを見上げ、ノージーはぼんやりとつぶやいた。
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