男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「キャァァァァ!」

 ビクビクしながらピケが必死になって気配を押し殺していると、突然悲鳴が聞こえた。

「な、なにごと⁉︎」

 橋を渡り切ったところで、馬車が停車する。
 御者席から降りた御者が、なにごとだと周囲を警戒しているのが見えた。

 素っ裸のままのピケはなにもできず、ただ見ていることしかできない。
 状況を把握しようと、悲鳴がした方──ちょうど馬車が止まっているあたりだ──を見ると、御者が女性を助け起こしていた。

 赤毛と黒毛が混じる珍しい色をした髪は間違いなくノージーで、ピケは首をかしげる。
 いつもは流しっぱなしにしている長い髪で猫耳をカムフラージュしていて、今はどう見ても人族の美女にしか見えない。
 ピケが見ていることに気づいているのだろう。ノージーは彼女にだけ見えるようにこっそり、親指を立てて見せた。

(なにをしようとしているの……?)
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