男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 ノージーたち魔獣が暮らす魔の森は、ロスティ国の北から西にかけて広がっている。
 ロスティ国は大陸の北方にある国で、世界でも有数の豪雪地帯だ。半年ものあいだ雪に覆われる難儀な土地なのだが、魔の森を挟んだ向こう側で乱立している小国たちは、この国がほしくてたまらないらしい。

 ロスティのやっかいな気候など気にもならないのか、小国たちはひっきりなしにけんかをふっかけてくる。そのたびにロスティは必要最低限の力でねじ伏せてきたが、いい加減我慢ならなくなったようだ。
 このほど大規模な作戦が展開され、ちょっかいを出した小国は漏れなくねじ伏せられ、ロスティに吸収された。様子見をしていた国は恐れ慄き、「ロスティには決して逆らうまい」と頷き合った。もっとも、そのうちの一、二国くらいは表向きだっただろうが。

 そんなわけだから、ロスティに吸収されたばかりのかつての小国では食糧難が続き、飢えた人族が魔の森に分け入ることは多々あった。
 おそらく、女の子もその一人なのだろう。

 この魔の森で、女の子が一人で生き抜くことは困難だ。魔素が満ちたこの場所は、魔力耐性がない者が入ればあっさりと迷い、魔獣に喰われてしまうのだから。
 きっと、女の子は猪に食べられてしまうだろう。
 時同じくして、ノージーもカラスに食べられてしまうに違いない。
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