男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 やっぱり、断るしかない。
 そう思ったピケが勇気を出して「あの」と口を開いたのと同時に、馬車の扉が開いてノージーが乗り込んできた。
 着替えてきたのか、ピケが持っている中で一番粗末なヒヤシンス色の服から、黒のワンピースに変わっている。
 イネスは乗り込んできたノージーを見て、両手を合わせてニッコリと微笑んだ。

「まぁ、よく似合っているわ」

「ありがとうございます。強盗から助けていただいただけでなく、服まで……」

「いいのよ。困った時はお互いさまだもの」

「それは、アルチュール国で信仰されている女神様の言葉ですね?」

「ええ、そうなのよ──」

 ピケの目の前で、王女とノージーがにこやかに話し始めた。
 すっかり断る機会を見失って、ピケはむっつりと黙り込む。

(なんなのよ、もう)
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