男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 ノージーはなんとなく女の子に運命的なものを感じて、どうにか助けられないか、と思案する。
 しかし、瀕死の状態である彼の頭は、考え事をすることさえ難しかった。

『こんな時になんだよ、僕のポンコツ!』

 ノージーが思ったその時、ついに女の子が姿を現した。
 こんがり焼いたパンみたいな茶褐色の髪。ちっちゃな鼻と口に、ノージーと同じ深みのあるグリーンに輝く楔石(スフェーン)のような目。小さな体のどこにそんな力があるのか、彼女は大きな袋を担いで走っていた。

 すぐ後ろから、猪が後を追う。
 女の子は後ろに気を取られるばかりでノージーに気付いてもいない。
 このままいけば、ノージーは女の子に踏みつぶされてしまうだろう。

『女の子に踏まれて死ぬなら、カラスにつつかれて死ぬよりまだマシかな……さぁ来い、名も知らぬ女の子。ひと思いにやってくれ』

 目を閉じ、ゆっくりと体を地面へ横たえたノージーは、しかし踏まれなかった。

「キャァァァ! ねこっ、ねこ踏んじゃう!」

 なんとか踏み止まった女の子が、ノージーを飛び越える。
 そのまま猪の追走から逃げていくと思われたが、彼女はなぜか引き返し、ノージーを無造作につかみ上げた。

「とりあえず、ここに入っていて!」

 女の子は持っていた袋へノージーを突っ込むと、再び走り出した。
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