男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 イネスいわく、ピケは祖国へ置いてきたお人形の代わりらしい。
 茶色の髪に、顔にうっすらと浮かぶそばかす。顔のパーツは全体的に小さめで、手足も細め。ピティという名前で、イネスはどこへ行くのにも連れて歩いたのだとか。

 しかし、娘に甘いアルチュールの国王も、さすがに嫁入り道具の中に人形を忍ばせることだけは許せなかったようだ。
 泣く泣く置いてきたという人形にそっくりなピケを見て、「これはもう手放してはいけない!」とイネスは思ったらしい。何を置いても彼女だけは侍女にしようと心に決め、その通りにしてしまった。

 どう考えたって怪しい女を侍女にと望んだのはそんな背景があったためだったが、それでもピケは納得がいかない。不思議がる彼女に、ノージーは「そういうこともあるのですよ」と笑っていたが。

(そういうこともある、のかなぁ?)

 やっぱり納得がいかない、とピケは隣に座るノージーの横顔を見た。
 赤と黒の不思議な色をした髪で、器用に猫耳と人族の耳がないことを隠している。化粧をしているわけでもないのにきれいな弧を描く眉、影が落ちるほど長いまつ毛、宝石のような深い緑色をした目。

 ただ静かに前を向いて座る彼は、美しいの一言に尽きる。
 正面から見ると美女にしか見えないのだが、横からだと中性的な顔立ちだ。
 成長途中の少年が持つ、危うさというのだろうか。触れたらパリンと割れてしまいそうな、はかなさがある。
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