男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
(そもそも、こんなに綺麗な人が私に恋をしたとかいうのも納得がいかないのよね)

 人に恋をした魔獣は、その恋を成就させるために恋した相手の理想の姿をとる──なんて、まるでお伽話だ。
 しかし、恋が成就しなければ消滅してしまうというのなら納得がいく。恋が成就するか否かで生き死にが決まってしまうのだから、相手好みの姿になるのは道理だ。

(それはわかる。でも、ノージーは違うと思うの)

 ピケがそう思ってしまうのには、理由がある。
 というのも、ノージーは初めて獣人になった日以来、彼女に対して「好き」とか「恋をしている」とか一度も言ってこないのだ。
 尻尾を抱きしめて身を寄せ合って夜を過ごしていた時だって、彼は一度だって不埒な意味でピケに触れてこなかった。
 ピケが不審がるのも無理はない。義兄たちの不埒な視線に晒されていた彼女なら、なおさらそう思うだろう。

(初めて獣人になった日だって、告白というよりただの説明みたいだったし……)

 あの時のノージーは、淡々と事実を述べている、もしくは、そういう設定を話している、という印象だった。
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