男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「謁見の間では、父だけでなく総司令官も待っているはずです」

「総司令官、ですか?」

「ええ。軍の最上級者です。しかし、恐れることはありません。見た目は怖いですが、女性や子どもには優しい男ですから」

 総司令官。
 その言葉に、ピケの顔が引き攣った。

 オレーシャの人々にとって、ロスティの総司令官は魔王のような存在だ。
 彼さえいなければ、オレーシャが大敗を(きっ)することはなかったはずだと言われている。
 実際のところはわからないが、ピケは「あらゆるものを焼き尽くし、奪い尽くすことを生きがいとしている、大魔王のような男らしい」と聞いていた。

 ピケは、実母を戦時中に亡くしている。
 彼女の死に直接の関わりはないが、戦争のせいでろくな治療を受けられずに病で亡くなったことを考えると、総司令官に対してなにも思わないわけがなかった。

 凍りついたように表情が抜け落ちたピケを、ノージーが心配そうに覗き込む。
 至近距離で美女から見つめられているというのに、ピケはときめくどころかギョロリと大きな目で彼を睨んだ。
 だが、それも一瞬のこと。
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