男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 それまで一言も発さずにノージーとピケを見ていた総司令官と思しき男が口を開いた。

「お話し中、申し訳ございません。イネス王女様は侍女をお連れにならないと聞いていたのですが、そちらのお二人は一体……?」

 今すぐに、ピケとノージーを摘み出してしまいたい。
 そんな剣呑な顔をしながら問いかけた男に、イネスは怯えたように肩を震わせた。

「侍女ですわ。なんとか途中で合流できたので、連れてきましたの。右がノージー、左がピケです。あの……二人を連れてきたのは、ご迷惑でしたでしょうか?」

 不安そうな声で二人を紹介するイネスに、キリルがオロオロしだす。
 総司令官相手に「イネス様をいじめるんじゃない!」と決闘を申し込みそうな勢いで手袋を床へ叩きつけようとしている息子を、国王は「まぁまぁ」とのんびりとした声で宥めた。

「いやいや、慣れ親しんでいる者がそばにいた方が、ここに慣れるのも早かろう。ヤーシャ、あいさつもせずに不躾なことを言うものではないぞ。すまないな、イネス王女。こやつの名前はアドリアン・ゼヴィン。総司令官という立場上、どうしても気になってしまうのだ。許してやってくれ」

「……では、二人はこのまま侍女としてそばへ置いてよろしいのでしょうか?」

「ああ、ぜひともそうしてくれ」

「ああ、良かった。ありがとうございます、国王陛下」

 国王の許しを得て、イネスはホッと胸を撫で下ろす。
 だが、ゼヴィン総司令官はまだ納得がいっていないようで、ノージーとピケを見据えたまま、無表情で腕組みをして何か思案している様子だった。
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