男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 掃除をする際、ピケには専用の制服が与えられている。
 王城のメイドたちが着るシンプルな制服とは違う、パニエがいくつも重ねられたフリフリのメイド服。下から見ると、まるでカーネーションのようだ。
 どうやら、イネスがピケのためにデザインしたらしい。
 足が出ていて動きやすいので気に入っているが、ノージーはお気に召さないようだ。ピケが高いところで掃除する時はいつも、近くで目を光らせている。
 一体誰が、ピケのスカートの中なんてのぞくというのか。王城には、ピケなんて目に入らないくらい、華やかな人たちだらけだというのに。

(そういうノージーの方が、見られているじゃない)

 脚立に乗って作業をするピケのすぐそばで階段の手すりを磨くノージーも、イネスの侍女ということで王城のメイドとは違う制服を着ている。
 王城のメイドたちよりもボリュームのあるロングスカートは、長い尻尾を隠すためらしい。
 スカートの中でモフモフがおとなしく収まっているのを想像するとピケの心は癒やされるが、肌の露出を抑えた制服は王城の男たちを興奮させてしまうようだ。

「たまんねぇ……」

「お、おい。おまえ、声かけてみろよ」

「おまえこそ!」

 そんな会話をしながら、男たちが遠巻きにノージーを見ている場面を何度見たことか。
 つい今し方も、見たばかりである。

「脚立からだとよく見通せるのよねぇ」

 ゲンナリとピケは表情を曇らせた。
 男というのはみんな同じなのだろうか。
 洗練された王都の男も、ピケの兄と大差ないように思えてならない。

(でもなぁ……)
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