男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 イネスに獣人だと告げることは、ノージーにとって躊躇うことではなかった。
 それは、彼女が信仰する女神が猫の獣人であるせいでもあったし、彼女自身が信頼できる人物だと思ったからだ。
 なにより、ノージーが消滅してしまった場合、ピケを保護してくれるのはイネスしかいない。彼女さえ事情を知っていれば、何かあったとしてもフォローしてくれるはず。それくらいには、イネスはピケを気に入っているとノージーは確信していた。

「その時間も、ピケ次第ではあるのですが」

 ピケが本当に幸せになるのなら、消滅するのも吝かではない。
 ノージーはすでに覚悟しているのだ。ピケと出会ったあの日、彼女に食べられるのが本望だと思ったあの瞬間から、ずっと。
 苦笑いを浮かべて達観したように言うノージーに、イネスが表情を曇らせた。
< 79 / 264 >

この作品をシェア

pagetop