男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「ここは大国(ロスティ)の王都。いろんな物が、人が、入ってくるわ。もしかしたら、あなた以上にすてきな人を、見つけてしまうかもしれない」

 眉をひそめ、顔をしかめながらもイネスは祈るように手を組む。
 彼女は、これからロスティの王族に名を連ねる人だ。国の方針である、魔獣の恋を応援する立場にある。
 だが同時に、彼女はピケのことを殊の外気に入っている。もしも彼女にノージー以外に想いを寄せる相手が現れたら、そちらを応援したいと願ってしまうだろう。
 イネスの定まらない視線には、そんな気持ちが見え隠れしているように、ノージーには見えた。

「そうですね。その時はその時ですけれど……そもそもピケは、自身を同性愛者だと思い込んでいるので、うまくいかないと思いますよ」

「あら。ピケってそういう趣味だったの?」

「いいえ。くそったれな男たちのせいで男性不信になっていますが、僕の体が男である以上、その可能性は低いかと思います。魔獣は、恋した相手の理想を集めた姿に変化する。それは、性別も含まれるのです」
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