男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「あらあら、汚い言葉を使って。らしくないのではない?」
「本当にくそったれでしたからね。あと数カ月……いえ、数日でもあの家にいたら、ピケはどうなっていたことか。考えることさえ恐ろしく思いますよ」
「そんなにひどい環境だったのね。逃げ出せて、良かったわ」
「ええ本当に」
イネスの視線が、窓の外へ向かう。
王都より南方の、はるか向こう。おそらく彼女は、二人と出会う前に通ってきたオレーシャ地方の風景を思い出しているのだろう。
どこまでも広がる麦畑と、壊れかけた家々。いまだ戦争の爪痕が残る、灰色の世界だ。
もっとも、魔獣だった頃のノージーの視覚は猫と同じようなものなので、色鮮やかな景色など見られるはずもないのだが。
「でもね、ノージー。わたくしはやっぱり、心配なのよ」
「少なくとも僕は、なんとかなりそうな気がしているのですが。なにせ彼女は、僕の見た目に弱い」
深い緑色の目をギラリと光らせて、ノージーは悪党のように笑った。
姿と笑みがちぐはぐだ。イネスは呆れたようにヒョイと肩をすくませてから、「どうかしら」と意味深な笑みを浮かべた。
「本当にくそったれでしたからね。あと数カ月……いえ、数日でもあの家にいたら、ピケはどうなっていたことか。考えることさえ恐ろしく思いますよ」
「そんなにひどい環境だったのね。逃げ出せて、良かったわ」
「ええ本当に」
イネスの視線が、窓の外へ向かう。
王都より南方の、はるか向こう。おそらく彼女は、二人と出会う前に通ってきたオレーシャ地方の風景を思い出しているのだろう。
どこまでも広がる麦畑と、壊れかけた家々。いまだ戦争の爪痕が残る、灰色の世界だ。
もっとも、魔獣だった頃のノージーの視覚は猫と同じようなものなので、色鮮やかな景色など見られるはずもないのだが。
「でもね、ノージー。わたくしはやっぱり、心配なのよ」
「少なくとも僕は、なんとかなりそうな気がしているのですが。なにせ彼女は、僕の見た目に弱い」
深い緑色の目をギラリと光らせて、ノージーは悪党のように笑った。
姿と笑みがちぐはぐだ。イネスは呆れたようにヒョイと肩をすくませてから、「どうかしら」と意味深な笑みを浮かべた。