男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「わたくしね、ピケにちょっとだけ揺さぶりをかけてみたのよ。あなたが一人で王都へ行ったのはどうしてかしらって。そうしたら彼女、なんて答えたと思う?」

「そうですねぇ……ピケのことですから、お菓子を買いに行った、とか言ったのではないでしょうか」

「違いますわ! ピケはこう言ったのです。ノージーはもしかしたらデートしに行ったのかもしれない、と。もう、一体何をしているのです。いえ、何もしていないからこういうことになっているのでしょう。あり得ませんわ、本当に」

「おやおや」

 ノージーは獲物を狙う猫のように目を細めた。
 鋭い視線はおよそ恋する相手を見るようなものではなく、イネスは咎めるように彼の名前を呼ぶ。

「その顔、ピケの前では絶対にしてはいけませんわ。欲望、丸出し。今にも襲いかかりそうですもの。できるだけ早く二人揃って休めるよう手配しますから、デートするように。わかりましたわね?」

「ありがとうございます」

「礼には及びませんわ。これもキーラ様の嫁として、当然の行いなのですから」

「なるほど。獣人の保護は王族の義務、ですか」

「そういうことです。それに、わたくしはあなたのことも気に入っているのよ? ピケほどではないけれど、あなたも大事なの。だから、ピケと二人で幸せになってもらいたいと願っているわ」

「ええ。僕の第一希望もハッピーエンドなので、できるかぎり頑張りますよ」

「そうしてちょうだい」

 話が早くて助かる。これで、近日中にはピケとデートできるだろう。
 イネスに事情を話しておいて正解だった、とノージーはホクホク顔だ。
 頭の中は、初デートのことでいっぱい。イネスの部屋を退室する時もあいさつを忘れるくらい、浮かれていた。
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