男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 ノージーは料理長を思い出した。
 王城の料理人たちを束ねる料理長は、三人の娘を持つ親バカである。そのくせ娘たちには「セクハラジジィ」と呼ばれて嫌煙されている、少々下ネタが好きすぎるおじさんだった。

 ノージーのことも侍女だと思っている彼は、ことあるごとに「顔は美人だが、おっぱいが残念だ!」なんて平気で言ってくる、失礼な男だ。そのたびに配膳係をしている彼の娘たちが代わる代わるペコペコ謝りにきていることを、料理長は知らない。いや、知っていて、わざとやっているのかもしれない。娘たちに構われたくて。

「僕が、料理長と同じですって?」

 ピシ、とノージーのこめかみに青筋が浮かぶ。
 ピケの顔に、しまったという諦めが流れた。
 視線を泳がせる彼女の顎をむんずと掴んだノージーは、女性らしい曲線を描くようになってきた頰をつぶしながらニィッコリと至近距離で微笑みかけた。

「僕が一体いつ、あなたに淫らな言葉をかけたと?」

「ないれふ……」

「こんなにも大切に思っているのに、あなたに伝わっていなかったとは……僕、悲しいです」

 顎から手を離したノージーは、ピケから顔を背けて泣き真似をした。
 ちょっとわざとらしいかとも思ったが、そうでもなかったようだ。
 途端にピケはオロオロしだして、ノージーの顔を覗き込もうとする。
 近づいてきた彼女をギュッと抱きしめたノージーは、耳もとに唇を近づけてささやいた。
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