男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「しっかりしなくちゃダメよ、ピケ」

 自分自身へ言い聞かせるように、ピケはつぶやいた。
 医師が帰ったら、継母はピケのところへやってきてこう言うだろう。「さっさと出てお行き、この役立たず!」と。
 せめて父の葬儀を見届けてから去りたいものだが、おそらく葬儀は執り行わない。このご時世、葬儀をする家の方が少ないからだ。

 扉の向こうで医師が帰り支度を始めた気配を感じて、ピケは慌てて自分の部屋へ戻った。
 自分の部屋といっても、階段下の小さなスペースだ。ベッド一つ分しかない小さな部屋に入った途端、ピケはズルズルと床へ座り込んだ。

「お父さん……」

 はらり、と目尻から涙がこぼれる。
 だけど、ここで泣き崩れている場合ではない。
 ピケは一刻も早く、この家を出て行かなければならないのだ。もし見つかったら、「この家のものは何一つ持っていくな」と、身一つで追い出される可能性がある。
 幼いピケを魔の森に置いて帰るような継母だ。それくらいのことはやりかねない。
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