男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
「……うわ」

 思わず、足がもたつく。
 慌てて体勢を整えたピケは、呆けたようにその人を見る。
 花が咲くような、という表現はこういう時に使うのだろう。
 持っている薔薇の花が霞んで見えるくらい、その人はあざやかに笑う。

「ピケ!」

「へ?」

 聞き覚えのある声で名前を呼ばれて、ピケは素っ頓狂な声を上げた。

(いやいや、まさか。そんな)

 口を開いたままの間抜けな顔で立ち尽くしていると、花束を大事そうに抱えてその人が走り寄ってくる。
 よく見れば──いや、本当はもうわかっている。スカート姿しか見たことがなかったから、頭が混乱しているだけだ。
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