男嫌いな侍女は女装獣人に溺愛されている
 ピケは知らない。
 このカフェが【オラヴァ】という名前で、オラヴァはリスを意味していることを。
 頰をぷっくりとさせているピケは頬袋を持つリスのようで、ノージーはあまりの愛らしさに笑いが止まらなくなっていた。

 その時、タイミングよくカウンターの奥にあるキッチンから女店主が顔を出して、

「あらあら。ごめんなさい、気づかないで。いらっしゃいませ。空いているお席へどうぞ」

 と、声をかけてきた。
 それでようやく笑うのを止めたノージーは、ピケを窓際のテーブル席へエスコートする。

 日の光がレースのカーテンを通って柔らかくさしていた。
 気持ちが良い席だ。このままずっと座っていたら、うたた寝してしまいそうなくらい。
 とろけそうな顔をして窓の方を向けていたピケは、その横顔を慈愛に満ちた顔でノージーが見つめていたことに気がつかなかった。
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