今日からニセモノお姫様!
婚約者候補その1 藤堂 瑛斗
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さて、また私は自分の部屋という名の乙女様の部屋に戻ってきた。
理由は至極簡単なことである。
私はまだまだ乙女様レベルが低すぎる。
今は先程のように決められたことを言うだけで精一杯なレベルだ。
伊織曰く今の状況なら乙女様なら確実に早速見目の麗しい男たちを取っ替え引っ替えするだろうが私の危うさに伊織自らストップをかけた。
せめてあと1日猶予をあげるからもっと完璧な乙女様に成り代われと言われたのだ。
なので私は昨日と同じように机に向かって座り、伊織がまとめたらしい乙女様ノートを必死で読んでいた。
ちなみに伊織は私の執事なので私のすぐ後ろでずっと黙ったまま立っている。
圧が非常に怖い。
昨晩みたいに鬼のように教えられることはないがサボることを絶対に許さない圧だ。
乙女様の好み→美は正義。美しいものは人でも物でも何でも好き。すぐに手元に置きたがる為浪費家。好物はチョコレートでハイカカオを好む。好きな色は淡い色の紫で無意識の内に紫色のものを手に取っている。好みの服装は…
「おっとめ様!」
「…っ!」
乙女様ノートを必死に読んでいると後ろからいきなり抱き締めらて思考が一旦停止した。
驚いて乙女様らしからぬ変な声をあげなかった私はよく耐えたと思う。
声からして後ろから私を抱きしめているのは伊織ではない。
本の内容を見られてしまえば一発アウト。
私は焦る気持ちに何とか蓋をして不審に思われないようにゆっくりと乙女様ノートを閉じた。乙女様ノートは閉じてしまえば一見普通の本なのだ。
「私が呼ぶまで来ないって決まりじゃない?」
あくまでも冷静なフリをして抱き締められたまま後ろを振り向く。
一体誰が早速決まりを破ったんだよ!