DEAR again〜アイスクリスタルのやくそく
浜野由梨絵の話
私立大学の文学部を卒業した私は、とある中堅どころの出版社に就職した。そこを選んだ理由は、憧れの作家の作品を独占的に刊行していたからだった。もしかしたら担当になれるかもしれないなどという、身の程知らずの甘い目論見が実現して一番驚いたのは、他ならぬ私自身だった。
その人の名は尾崎之彦。女性のように優しい声で穏やかに話す人で、苛立ったり、怒ったりしたのを一度も見たことがない。気の利かない新人の私にさえ、いつも優しく接してくれて、いつしか憧れが恋心に変わっていったのも自然の成り行きだった。
尾崎は独身で、大きな屋敷に一人で暮らしていた。恋人らしき存在もないようだったが、わたしは自分の気持ちを打ち明けられなかった。立場の違いはあるが、それよりも彼が女性に関心がないという事実に、気がついてしまったからだ。
彼の心はいつも別の場所にいた。いつも何かを考えている。それが何なのか、私に打ち明けてくれたのは、ある年の、クリスマスが一週間後に迫った日のことだった。
その人の名は尾崎之彦。女性のように優しい声で穏やかに話す人で、苛立ったり、怒ったりしたのを一度も見たことがない。気の利かない新人の私にさえ、いつも優しく接してくれて、いつしか憧れが恋心に変わっていったのも自然の成り行きだった。
尾崎は独身で、大きな屋敷に一人で暮らしていた。恋人らしき存在もないようだったが、わたしは自分の気持ちを打ち明けられなかった。立場の違いはあるが、それよりも彼が女性に関心がないという事実に、気がついてしまったからだ。
彼の心はいつも別の場所にいた。いつも何かを考えている。それが何なのか、私に打ち明けてくれたのは、ある年の、クリスマスが一週間後に迫った日のことだった。