【完結】偽り夫婦の夫婦事情〜偽りの愛でも、幸せになれますか?〜
「……正直に言うと、なんとも言えない状態です。あの時の手術で取りきれなかったガンが、肺や肝臓にも転移したようで……。思ったよりも早く、進行したと思われます」
「そんな……」
「お父様……」
最後にお父様に会ったのは多分、2週間くらい前だったと思う。……あの時会った時は元気だと。大丈夫だと言っていたけど、本当は元気に見せようとしてムリしていたのかもしれない……。
わたしたちは、しばらく言葉を失っていた。言葉が出なくて、棗さんにも何を言ってあげればいいのか分からなかった。
「……今は薬を投与して安定していますが、いつ容態が悪化しても、おかしくはありません」
先生は静かにそう言うと、言葉をそのまま続けた。
「……おそらく進行したガンは、手術でも取り切ることは難しいです。完璧に取りきったとしても、悪性のガンがまたどこかに転移する可能性も充分に考えられます。……進行が早いため、薬で進行を遅らせるのも、正直……。厳しいです」