【完結】偽り夫婦の夫婦事情〜偽りの愛でも、幸せになれますか?〜
「……はい」
「まさか、親父がここまで悪いとは思ってなかった……。親父ともう少し、話をしたかった……」
棗さんはそう言うと、そのまま病室を出て行ってしまった。わたしは棗さんを追いかけようとしたとたけど、出来なかった……。
「棗さん……」
今棗さんのことを追いかけてもいいのか、分からなかった。追いかけたとしても、きっと掛ける言葉がない。……わたしはお父様のことをよく知らない。だからこそ、追いかけて言葉をかけても、わたしに言えることが何もない気がした。
それからというもの、棗さんは仕事の合間を縫ってお父様の様子を見に行っていた。時間がある時は、お父様に話しかけたり、仕事の話をしたりしていた。
わたしはそのたびに、何も言わずにただ棗さんのそばにいることを決めた。何も言わずとも、お互いを分かり合えるのが夫婦なのだと、わたしの母は言っていた。何も言わなくても、そばいるだけで安心するんだって。
だからわたしは、棗さんのそばにいることを決心した。