【完結】偽り夫婦の夫婦事情〜偽りの愛でも、幸せになれますか?〜
【深い悲しみの中で授かった命】
それからしばらくしても、お父様の病状は悪化するばかりだった。薬を投与してもあまりよくはならなかった。転移した箇所の手術もしたけれど、完全にガンを取り切ることは出来なかった。
そしてお父様の意識も朦朧としていて……。目を開けたとしても、薬による副作用で体を動かすのも難しくて、まともに話すことも出来なくなっていた。そんな姿を見るのがとても辛くて……。何も出来なくて、虚しくて辛かった。
「……親父、いよいよかもな」
棗さんはベランダから外を眺めながらそう言っていた。わたしは棗さんの手を握りながら、寄り添うことしか出来なかった。
「……お父様、だんだん衰弱してしまってますね」
「ああ……。もうまともに話すことも出来ない。目を開けるのも辛いんだろうな」
「……棗さん」
「親父に俺が頑張ってる姿、見せたかったんだけどな……。もう無理かもしれないな……。見せてやれない……」
棗さんは小さくそう言うと、そのまま寝室へと行ってしまった。