【完結】偽り夫婦の夫婦事情〜偽りの愛でも、幸せになれますか?〜
「……え?」
誰?どうしてわたしの名前を知ってるの?わたしは、今はコンシェルジュじゃない。名札がないから、名前を知られるものが何も無いはずなのに……。どうして?
「聞こえなかったのか?お前が波音(なみね)聖良(きよら)かと聞いているんだ」
目の前にいるその男性は、もう一度そう言った。
「えっ……。あ、はい。わたしが、波音聖良ですけど……」
恐る恐る名前を口にすると。彼はわたしの前に腰掛けて、一言こう言った。
「……なあ。お前、俺と結婚しないか?」
「……はい?」
頭の中に繰り返されるのは、結婚という2文字。えっ、えっ、結婚?
待って待って!どういうこと……?
え?い、今なんて?
頭の中をグルグル思考回路が回っていくけど。訳が分からなくて。戸惑うばかりだ。
チラつく結婚という言葉の2文字だけが、わたしの頭の中を塗りつぶしていく。
「仕方ない。もう一度言う。……波音聖良。俺と結婚しないか?」