きっかけのさよなら。
「…あ、ごめんなさい。もう帰りますね」
持ち主を見上げると、ベージュっぽいふわふわの髪。どこか仔犬っぽい中性的な顔をした男の子が、眉毛を下げて私をみていた。
パスケースを首から掛けているから、スタッフの子なのかもしれない。
イルミネーションが消えてもなお、居続ける私のせいで、撤退することができずに困っているのかも。
ハンカチは受け取らずに、足元に置いていたバッグを急いで持ち上げて、一度は合ってしまった瞳を逸らした。
見つからないように、コートの袖で情けない涙を拭うと、その腕を捕まれる。
「いいから!」
「え?」
「…擦ったら、目、赤くなりますよ」
突然のことに、涙のことを忘れて振り返って、目をぱちくりとすると、男の子は気まずそうに顔を背けた。
「大人しく使ってください」
「大人しくって!ふふ!ありがと!」
再び差し出されたハンカチを受け取ったのに、それでも不服そうな顔が消えないのは、たぶん、照れ隠しだろう。
「恥ずかしいとこ、みせちゃってごめんね」
たぶん私は、君よりいくつか大人なのに。
幸せが集まる場所にわざわざ来て、感傷的になって迷惑までかけるなんて、情けなくて恥ずかしい。
たまたまのタイミングだけで、気にかけてくれているやさしい男の子に、大丈夫だと。笑ってありがとうを言いたかった。
返ってきたのは、真っ直ぐな瞳。
「恥ずかしくなんかないよ。
それだけ、真剣だったんでしょ」