きっかけのさよなら。




「…あ、ごめんなさい。もう帰りますね」


持ち主を見上げると、ベージュっぽいふわふわの髪。どこか仔犬っぽい中性的な顔をした男の子が、眉毛を下げて私をみていた。


パスケースを首から掛けているから、スタッフの子なのかもしれない。

イルミネーションが消えてもなお、居続ける私のせいで、撤退することができずに困っているのかも。


ハンカチは受け取らずに、足元に置いていたバッグを急いで持ち上げて、一度は合ってしまった瞳を逸らした。

見つからないように、コートの袖で情けない涙を拭うと、その腕を捕まれる。



「いいから!」

「え?」


「…擦ったら、目、赤くなりますよ」




突然のことに、涙のことを忘れて振り返って、目をぱちくりとすると、男の子は気まずそうに顔を背けた。



「大人しく使ってください」

「大人しくって!ふふ!ありがと!」


再び差し出されたハンカチを受け取ったのに、それでも不服そうな顔が消えないのは、たぶん、照れ隠しだろう。



「恥ずかしいとこ、みせちゃってごめんね」



たぶん私は、君よりいくつか大人なのに。

幸せが集まる場所にわざわざ来て、感傷的になって迷惑までかけるなんて、情けなくて恥ずかしい。


たまたまのタイミングだけで、気にかけてくれているやさしい男の子に、大丈夫だと。笑ってありがとうを言いたかった。


返ってきたのは、真っ直ぐな瞳。



「恥ずかしくなんかないよ。
それだけ、真剣だったんでしょ」



< 3 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop