すてきな気持ち

由香が平日勤務している総合病院はこの地域では大学病院ほどではなくても大きく、珍しい症例なども扱う重要な病院だった。
その規模の大きさから、職員全員の顔なんて間違っても覚えられるはずがなく、人の入れ替わりも激しかった。

「出会い、ありそうですけどねえ。そんなにたくさん人がいたら」
「あったらとっくにどうにかしてるわ」

あるとき、いつもの土曜日、実家の病院で三城ちゃんと休憩を取りつつそんな話をしたことがある。

この総合病院には同年代のスタッフも多いが、産婦人科には上司の産婦人科医たちを除いて全員女という構成だったし、他部署の同年代で独身の医者に限ってはちゃらちゃらしているか冴えない男かの二極化だった。

他にも病院にはコメディカルや事務など多くの職員がいたが、特別な関係になりたいと思う人は特にいなかった。
でも由香は誰にでもきちんと挨拶するし笑顔も見せる。仕事もしっかりこなしている。
三十二歳独身、別に間違ったことをしているわけじゃないし、博樹から愛された日々はいつだって支えになる。もちろん、また誰かを好きになれたらいいなとは思うけれど。

「そういえば今年度一年間だけ、週2日、東京から来てるドクターがいる。独身らしい」

三城ちゃんに言うとまた目を輝かせた。なんでこう素直でリアクションが面白いのだろう。こういう愛嬌のあるキャラクターは男女問わず好感を持たれるに違いない。自分にはない魅力。かわいいなと思う。

「ああ、でも、東京に戻っちゃう人はだめですね。由香先生連れていかれたら困るんで」

怪訝な顔をした彼女に由香は笑ってありがとうを言った。

「大丈夫、好みじゃないから」
「由香先生の好みの人なんて前の彼氏さん以外で聞いたことないんですけど」

手にとった書類を持つ手を止めて由香は数秒間の沈黙の後、そうかしら、と言った。
三城ちゃんは、そうですよ、と言って二人で黙々と自分の作業に戻った。

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