きみの手のひらで、僕はおどる。



こんな風にまた、たった一言でふわりと空気を軽くしてくれるきみに、愛おしさが込み上げる。


今すぐに、隙間なく抱きしめたい気持ちをこらえて。星を閉じ込めたかのように瞬く、きみの瞳をみつめた。



「月は?違うの?」


答えはきみの中にみつけていたけど、あえて聞いた。きみの口から、きみの声で、きみの言葉で聴きたかったから。


僕の反応を予感していたみたいに、あがる口角。しあわせな角度に下がった目尻。

きみの名前がもつ月のように三日月型になった目は、いたずらと愛情を含んでいる。




「実はこのあとね、部屋用のプラネタリウムとケーキにシャンパンも用意してるの。

なんでかわかる?」



脈絡のないきみの言葉。

だけど僕には、切り出したきみが言わんとしてることが、わかる気がした。



「…教えてよ」


それでも分からないフリをしたのは、輪郭のない "予感" を、ホントにしたかったから。


現実をかみしめ、味わいたかった。





期待を込めてみつめる先で、迷いなく受け止めてくれるきみの瞳に、高鳴る鼓動。


とくん。と。

はじまりの時のような甘酸っぱさが口に広がる。


わかってるくせにと、きみは前置きをして。




「星に、よろこんでほしいから。

ど?これでも私の愛情伝わらない?
足りないかな?」



くれる言葉は、用意してくれていたギフト以上に、僕の心をふるわせた。

聞きたかった "理想" 以上だ。




隙間なく抱きしめたいと。

数分前にこらえた感情のブレーキは、もう効かなくて。必要もないから。


心の奥の奥。地球の中心からじわじわと溢れ出てくるものに身を任せて、思いのままにきみを抱きしめた。





「足りない」


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