きみの手のひらで、僕はおどる。
ここ数日間、僕は彼女がiPhoneと睨めっこをしたり、会話をしている姿しかみていない気さえする。
それほどまでに、彼女はiPhoneの中にいる "なにか" に、夢中なのだ。
今だってそう。
さっきはごめんと、僕よりもiPhoneを優先したことをかわいく謝ったばかりなのに。
もうすでに、彼女の心はiPhoneに奪われている。
「こっちにきてよ、月」
僕のワンルームにはないクイーンサイズのベッド。
月がいなくなると、途端に余白の多さに冷たさを感じて、するりと抜け出した背中へ呼びかけてみる。
「ごめ〜ん、ちょっと待って」
彼女を縛るiPhoneから顔もあげずに、本日何度目かのごめんが繰り返されて、僕は再び待ちぼうけ。
開かれた窓枠に腰かけている彼女のうしろには、月が浮かんでいて。照らされた姿は思わず見惚れてしまうほど、キレイなのだけど。
さすがに扱いが雑すぎないかと、彼女に目線を送る。
そもそも、僕のワンルームだと窮屈だからたまには温泉にいこうと、わざわざ連休まで合わせて連れ出したのは、月なのに。
しばらく想いを飛ばしてみても、小さな画面に必死なきみは、一向に気付かぬまま。
目線が合わさって、ごめんねと。
かわいく微笑んでくれるだけで、僕はなんだって許せるのに。