きみの手のひらで、僕はおどる。
「ねぇ、月。iPhoneばかりみてないで」
たまらず傍まで寄っていって、憎きそれを取り上げた。
抵抗できないようにやさしく抱きしめて、首筋に顔をよせる僕も、彼女に負けず劣らず、なかなか狡いのかもしれないと思いながら。
それでも我慢できなかった。
彼女の中から自分という存在がなくなっていってしまうことが。
iPhoneという手のひらサイズの電子機器ひとつ。その中にある "なにか" に、彼女を奪われてしまう気がして。
「お願い。あと少しだけ。
今はかなり、大事なとこなの」
きみは僕と、同じキモチでいると。
実感したくて唇を求めると、触れたのは欲しかったそれじゃなくて、細くひんやりとした指先。
かかる吐息を残酷だと感じたのは、生まれてはじめてだ。
「ね?」
この距離で下から見上げてくるきみは、世界でいちばんかわいく、世界でいちばん、分からない。