偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
簡単な誤魔化しで凪紗は納得したが、俺は引っかかりが取れなかった。
なぜ今、思惑がバレるような質問を口走ったのだろう。
まったく警戒心のない、疑いをいっさい持たない凪紗の笑顔が苛立たしかったからか。嘘だらけの俺に向けられる無邪気な笑い声が耳障りで、聞くに堪えず、少し泣かしてやろうと思ったからなのか。
いや、まさかとは思うが、これは罪悪感なのか?
あってはならない情が自分の中にあることに気づき、俺は焦りを感じた。
凪紗に情など持ったら、今までやってきたことが水の泡になる。
凪紗は金森善次に目的の物を差し出させるための人質だ。それ以外の何物でもない。なってはならない。
そう自分に言い聞かせた。
しかしその数日後、凪紗はいつものようにオフィスへやって来て、俺の腕の中で笑顔を浮かべながら唐突に切り出した。
「あの、冬哉さん。私、この前の質問に答えていませんでしたよね」
「……なんだっけ?」
「冬哉さんが私を好きじゃなかったらどうする、って聞いてくれたじゃないですか。ちゃんと答えないとと思って」
「ああ……」
腕の中の凪紗は目を輝かせている。