偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
なにを言っているんだ。理解できない。俺はお前のことなど、大事に思ってなんかいない男だぞ。騙されているんだよ。
なぜそんなに他人に従順になれる? なぜ自分の弱みを委ねてしまえるんだ。
俺とは相容れない、まったく違う人種なのだろう。
当たり前に周囲から愛され、大切に扱われ、誰かを疑う必要がない、そんな環境で育った筋金入りのお嬢様。
「冬哉さん?」
「……なんでもないっ」
どうして俺はこんなに動揺しているんだ。
平和ボケした凪紗のいつもの世間知らずな言動じゃないか。俺を信じきっているなら好都合だろ。
いつかお望み通り、お前など好きでもなんでもないただの人質だと告げ、彼女を捨てる未来が来る。
それなのに、なぜか──
『冬哉さんが私のことを嫌いになってしまっても、私の気持ちはきっと変わりません』
──俺には理解し難いその言葉が、頭から離れなかった。