偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
人質逃亡








それから冬哉さんは思い詰めたように口を開かなかった。食事中も、戻って仕事をしていても瞳の焦点が合わず、心ここに在らずといった様子である。

心配になり声をかけてみても、私の「なにかありましたか?」などという言葉では、気持ちを聞き出すことはできなかった。

翌朝。冬哉さんの言った通り、本村さんがホテルに訪ねて来た。

「凪紗さん、今日はよろしくね」

「……はい」

仕事用のジャケットをしっかりと着た冬哉さんとは対照的に、今日の本村さんは黒のVネックセーターに白いパンツの私服姿。
どこか楽しそうな顔で、リビングの私たちにひらひらと手を振っている。

冬哉さんはネクタイを整えながら、彼をひと睨みする。

「本村。打ち合わせが終わればすぐに戻る。それまで凪紗を外へ出すな」

「わかってるよ」

「凪紗。できるだけ寝室から出るな。あと、本村を部屋に入れるな」

「おいおい冬哉! なにもしないから大丈夫だってば!」
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