偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

──本村さんは、丁寧に、冬哉さんの生まれから今日までの話をしてくれた。
おそらくそれは冬哉さんから直接聞いた事実のほかに、本村さん自身の想像も含まれていたと思う。

ご両親を亡くしてから叔父さん夫婦の家で暮らし、その後、祖父母の家に引き取られたこと。
おじいさんは大工さん。おばあさんはお菓子屋さんになるのが夢だったけど、それが叶わなかったこと。
気がかりの多い生活の中で、冬哉さんはずっと、人を信じずに生きてきたこと。

そんな中で、唯一好きだったおばあさんのお菓子。それが『はなごころ』であったこと。
歴史館にあるあの手記は、おばあさんの筆跡であること。

それを奪われ、夢が叶うことはなくなり、苦しい最期を迎えてしまったこと。
冬哉さんはおばあさんのために、金森製菓から『はなごころ』を取り返そうとしていること。

「金森製菓の創業者、つまり凪紗さんのおじいさんは、それが自分の考えたものだとずっと嘘をついている。『はなごころ』は冬哉のおばあさん、ハナさんのものなんだ」

「……そんな……」
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