偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
知らなかった。おじい様が、冬哉さんのおばあさんから『はなごころ』を奪ったなんて。
おばあさんのお菓子が好きだったという冬哉さん。それはきっと、お菓子だけじゃなくて、おばあさんのことが大好きだったのだろう。
幼い頃の冬哉さんの姿はわからないけど、想像してみた。
優しい人だったはずだ。今だって、こんなに優しいもの。
私利私欲なんかじゃない。始めから、誰かのための計画だったのだ。
それだけで、私にとっては涙が出るほど優しい事実だった。
「凪紗さんはなにも悪くないってことは、冬哉もわかってるはずなんだ。俺には、利用してしまったことへの後悔で苦しんでいるように見える」
私もわかる。冬哉さんは苦しんでいるように見える。
そして、苦しめていたのは、私だった。