偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

「……凪紗さん? 大丈夫? そんなに泣かないで」

丸まって膝へ泣き崩れる私の背中を、本村さんの温かい手のひらがさすってくれる。
泣かずになんていられない。

私と出会ってから、彼はどれほどつらい思いをしてきたのだろう。

なにも知らない私は何度も『はなごころ』を差し入れ、一緒に食べた。オフィスの皆さんにも勧め、金森製菓の看板商品だと説明した。

おばあさんの仇である金森製菓の令嬢の私が、彼を好きだと言って近づいた。この計画は、きっと私がいなければ思い付かなかっただろう。私と出会わなければ、冬哉さんはこんなに悲しい復讐をしなくて済んだのだ。

「ごめんなさい……ごめんなさいっ……」

「な、なんで。凪紗さんはなにも悪くないって」

たしかに私に悪気はなかった。でも、私がそばにいることで、知らず知らずのうちに冬哉さんを傷つけていたに違いない。
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