偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

【無茶言うなよ】

【手記と交換でないのなら、私はなにがあっても家に帰らないから。お願い。アキトくんにしか頼めないの】

無心で文字を打っていると、ドアがノックされた。

「凪紗さん?」

「は、はいっ」

驚いて肩が上下し、スマホが手の中で滑る。しかし鍵をかけていたことを思い出して深呼吸をした。

「大丈夫? 落ち着いた?」

「はい。すみませんでした」

「ねぇねぇ、じゃあさ、お昼はどこか外に連れていってあげるよ」

本村さんの声は陽気に変わっていく。

「え? 外……ですか?」

「だってこんなところに引きこもってたら気分が暗くなるだろ? 」

勝手にそんなことをしていいのかな。逃げるつもりなんてないけど、私を外に出すなんて。
< 167 / 211 >

この作品をシェア

pagetop