偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
◇ ◇ ◇
本村さんに連れられてやって来たのは、ホテルから徒歩で十分ほどのフレンチレストラン『アルカンジュ』だった。
白い壁に青い屋根のすっきりとした外観だが、一歩中へ踏み入れるとベイロット・ホテルのラウンジに負けず劣らず高級な雰囲気が漂っている。
クロークにはなにも預けず、私は白のハンドバッグを持ったまま案内された席につく。
「いいところだろ? 凪紗さんとゆっくり話したくて。気分転換にもなるし」
「……はい」
たしかに、出窓から覗く緑あふれる庭園の景色は、都会にいるはずなのに心が爽やかになる。
冬哉さんと一緒に、来てみたかった。
もう戻れない閉ざされた未来を思うと、この素晴らしいお店の雰囲気を持ってしても、私の心は癒えそうになかった。