偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
ノンアルコールの食前酒、五種の前菜がのったプレート。私の前へ運ばれてくるメニューは、どれも本村さんのものとはわずかに違う部分がある。
「妊婦を連れていくとシェフに言ってあるんだ。生モノや酒類は使われてないから、安心して」
「……ありがとうございます」
私が妊婦ではないことは本村さんには隠し通さなきゃならない。
しかし、今の私にとって、妊娠をしているふりをするほど悲しいことはなかった。
存在していない愛がここにあると偽ることは、こんなにも自分が空っぽで、ひとりぼっちだと感じる。
冬哉さんは十か月間、こんな気分だったのだろうか。ゼロの感情を偽り、私に愛を囁くのは、虚しくてたまらなかったはずだ。