偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
「凪紗さんは、お腹の子を産むつもりなの?」
「えっ」
目の前の本村さんは、微笑みを浮かべた真面目な顔で切り出した。これが本題だったのだろうか。
「……はい。そのつもりです」
「それはどうして? 普通、騙されてたってわかったら考え直すものだろう」
私は言葉の裏は考えず、ショットグラスの烏龍茶をひと口飲んでから思いつくままに答える。
「騙されていません。私が冬哉さんを巻き込んだんです。彼の子を産みたいのも私の独りよがりな気持ちで……冬哉さんの心がどうなってしまっても、私の気持ちは変わらないから」
ひとりでも、彼を想って子育てをするつもりだった。よくばりな願い事をするなら、いつかどこかで一緒になれたらいいなって。否、彼の過去を知るまでは、いずれそうなると心のどこかで思っていたのかもしれない。
私の自分勝手な想いに、多くのものを巻き込んでいる。これまでも知らないうちに人を傷つけてきたのだろうか。
でも、もう終わりにできる。妊娠していなかったことで、これ以上冬哉さんを苦しめずに済むという安堵と、唯一の繋がりを失った喪失感が卑怯にも渦巻いている。