偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
「俺は、もう冬哉と十年の付き合いになるんだけど」
「はい」
「アイツは本来、優しい人間なんだと思う」
知っている。
私はうなずいた。
「冬哉は生い立ちのせいか、他人を信用しようとしない。でも、俺はアイツが誰かを傷つけようとしているところを見たことがない。凪紗さんのことも、付き合う中で絆されて割り切れなくなっているように感じたよ。予想通りだ」
「……そうでしょうか」
「うん。だから、アイツが凪紗さんを妊娠させたと知ったときは、すごくショックだった。一生残る傷をつけることはアイツにはできないと思っていたから」
私も、そう思う。優しい冬哉さんには本来できない、酷いことをさせてしまった。
出会ってからふいに見せたあの切ない表情は、私を傷つける未来に心が悲鳴を上げていたのだろう。