偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
じわりと目が熱くなり、涙が滲む。雫がテーブルクロスに一粒落ち、私は慌ててハンカチをあてた。
「あーあー、本当に泣き虫だな、凪紗さんは。かわいい顔が台無しだよ」
「すみません……」
別れを意識すると、これまでの楽しかった日々を思い出す。
お付き合いしていた先月までの時間と、気持ちを明かしてくれたこの一か月。私には、そのどちらも嘘だとは思えないのだ。
これからもっとたくさん彼を知りたかった。でも、もうそれは叶わない。
「ちょっと、お化粧直しに行ってきてもいいですか」
「もちろん。ゆっくり行ってきて」
足元のラックに置いていたハンドバッグを持ち、クロークと入り口の間にあったお手洗いへと席を立つ。
女子トイレの三つの個室のうち、一番奥に入り、立ったままハンドバッグの中を漁った。