偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

俺のように非情ではない、似合いの優しい男の手によって幸せになる彼女の姿を想像すると、胸が焼けつくように苦しくなった。

──バカだな、俺は。

ホテルの駐車場に着き、しばらく動けずに車内に留まる。ハンドルに腕を折ってしなだれかかり、そこに顔を埋めた。

数分そのままうなだれていたところ、マナーモードに設定していたスマホがスラックスのポケットの中で振動した。
すぐには出れず五コールしてからどうにか腰のポケットに手を伸ばし、画面を確認する。

本村だ。

とくになにも考えず、タップして電話に出た。

『冬哉!』

「……なんだ」

思わずスマホを耳から離すほどの大きな声が、こちらの耳に直接響く。奴にしてはずいぶんと焦った声色だ。
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