偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
◇ ◇ ◇
ホテルから『アルカンジュ』の近辺へ向かいながら、左右の歩道の隅々まで目を動かし、凪紗を探す。
最寄駅への大通りからの回り道も試し、歩ける範囲内に凪紗がいないことに胸騒ぎが止まらなかった。
タクシーに乗ったのだろうか。財布を持っていたのか? それならいいが、 そうじゃなかったら。
後部座席に投げている自分の鞄の中には、凪紗から取り上げた彼女のスマホが入っている。こんなことなら返しておけばよかった。
逃げだしたってかまわない。無事で帰っていてくれ。
願ったところでどうにもならず、俺は『アルカンジュ』の駐車場へ入る。
すると店の脇に本村が立っており、車を見つけてると手を上げてこちらへ走ってきた。